77. 師走の他事多用な煩忙の中で・・・
今年は、5月に開院5周年迎えた後から公私ともに忙しさが増しゆっくりコラムを綴る時間的余裕があまり持てませんでした。
日々の診療を通じて、「患者と医師」の関係を通り越して「人間と人間」が織り成す機微を多くの人から教えられた一年であったと思います。
日々の忙しさに中で診療がスムーズに進行出来ましたのはクリニックを下支えしてくれている多くの精鋭な診療スタッフのお陰と思います。
その多大な労力と細やかな配慮に心から感謝しつつ大勢の患者さんにご来院頂きましたことを改めてここに御礼申し上げます。
本日は、大晦日。
一年を振り返って頭によぎったことをコラムに綴る予定でしたが
I am too busy and not have any free time for consideration.
それで・・・
平成24年12月号の青葉区医師会月報、巻頭言に寄稿した文章を転記して今年最後のコラムと致します。皆様にとりまして来年も良い年となりますように。
2012.12.31
平成24年12月号青葉区医師会月報、巻頭言
「医師のセルフ・マネージメント
ー医師会の意義と自身の役割ー」
古市 晋
2010年と2011年に二年連続ビジネス部門年間ベストセラーになった「もし高校生の女子マネジャーが、ドラッカーのマネージメントを読んだら」は、マネージメントの意義を考える契機となった方が、多かったのではないかと思います。ドラッカーの著書は、ただ経営学の本という一分野の専門書にとどまらず、人と人が一緒に働くことによって得られる喜びや社会的存在としての普遍的な人間の幸せについて著されたものでした。
マネージメントという言葉を直訳すれば、「管理」「経営」などの意味ですが、ドラッカーのマネージメント論を端的に言うと「人と人とが成果を上げるための様々な工夫」です。マネージメントには、組織が金儲けのために事業を如何に運営していくかという近視眼的な目的以上に組織を構成する人間が幸せのために社会を如何に作っていくかという遠視眼的な目標が含まれています。
ドラッカーは、マネージメントには三つの役割があると定義しました。
「自らの組織に特有の使命を果たす」
「仕事を通じて働く人たちを生かす」
「社会に及ぼす影響を処置し同時に社会の問題について貢献する」
この三つの役割を医師に当てはめてみますと私たちがどのような診療科であっても、その医師がどのような組織に所属していようとも、さらには老若のどのような人生ステージの医師であっても、医師として仕事をする限りは、果たさなければならない責務であろうと思います。
さて、私たち青葉区医師会は、平成25年4月に一般社団法人に生まれ変わろうとしています。その意義は、医師会の遂行する事業が「使命を果たし、人を生かし、影響を処理し」そして保持している能力をもって地域医療に「貢献する」ことにあります。しかし多くの医師は、地域医療に貢献する意義は共有できてもその行動のベクトルは、同じ方向に向いていないのが現状でありましょう。
ここで大切な視点は、先行きが不透明で明るさが見出せない世の中で頼りになるのは、自分自身が持っている力(人間力)と地域が育んだ力(医療力)が、如何に癒合し連帯し機能しているかだと思います。
私たち医師は、医師になった直後ら更なる医学知識を学習し、学習したその知識をより高度な次元で実践する訓練を重ねて来ました。これらは、医師の能力として必要条件であろうと思います。そして実践されたその医療が、本当に患者に役に立っているかを自己に問う自省的客観力を最後に備えていることが、医師の能力として十分条件であろうと思います。
この必要かつ十分条件を備え持つ「医師の人間力」は、医師が、臨床経験を重ねていく成熟過程で習得されるものです。さらに自身が年老いて人生経験を重ねていく老齢過程の中で自らも病者となって自省力として初めて気付かされるものでもあります。これらの力は、地域の歴史や文化によって育まれた「地域の医療力」の中で埋もれて腐らず、さらに独り善がりにもならず有機的に発揮されていることが、一番幸せな姿です。
「医師の人間力」とは、医師に臨床経験と人生経験が豊富にあること。「地域の医療力」とは、地域に大学病院、専門病院、総合病院があり、さらには地域に根ざしたプライベートオフィスが多彩にあること。この二つの「力」が、医師自身が病者となって治療を受ける立場になった時、調和して機能していてほしいと願うのは私だけではないでしょう。
医師会の事業を推進する近視眼的な目的の先にあるのは、よりよい社会を作っていくことです。そのための組織の根底を考えた時、この地域で「私たち医師が、役割を如何に幸せに果たせるか」と「患者(将来私たち医師自身)が、医療を如何に円滑に享受できるか」は、共通の遠視眼的な目標であると思われました。
青葉区で医療を担う医師は、青葉区医師会員であろうと無かろうと医師会員の中でもその帰属意識が濃厚であろうと無かろうとこの土地の医師である限り「人と人とが成果を上げるための様々な工夫」が必要です。ドラッカーは、マネージメント論の中で組織の正当性が存在する工夫は、個々の人間が「強みを生かす」部分にあると述べました。
私たちは、医師会そのものの役割と在り方、医師会員相互の連携、医師会員と非医師会員の関わりを iPS 細胞のように一旦初期化する・・・医師と患者(将来は医師自身)が、共通の目標に向かう公益の場として医師会の存在意義を再認識する・・・そして自身の役割の中でより鮮明に「強みを生かす」ことで社会に貢献する・・・これら私たち医師のセルフ・マネージメントこそが、新しく法人化されるこの時期に必要なのではないでしょうか。
今年も長年に渡り青葉区の地域医療に貢献された多くの先生が、ご逝去されました。命が絶えるのは、生物の宿命とはいえいずれは必ず私たち医師にもそのような時が訪れます。無常を胸に哀悼の意を表しご冥福を祈りつつ、また新たな年に新たな連帯と融合を深めていきたいと思います。法人化に向けて直向きに無償のご尽力をされている理事の諸先生に心から敬意を表しながら、平成25年も皆様にとりまして幸多い年になりますことを祈念致します。
平成24年12月3日 記