院長が「横浜市医師会月報巻頭言(令和7年2月号)」にて、医師会会員の先生方へご挨拶を掲載しました。
解剖検体の前でピース写真
ー医療プロフェッショナルの「倫理観」と組織の「危機管理」についてー
2024年12月末、ある美容外科医が解剖研修時の不適切な写真をSNSに投稿し、医療界に大きな波紋を投げかける事態が発生しました。この出来事は、医療専門職としての倫理観と医療機関における危機管理の在り方について、私たちに重要な示唆を与えていると思います。
事案の概要は以下の通りです。
東京を中心に展開する美容外科グループの医師(女医)が、米国グアムでの解剖研修における写真をSNSとブログに投稿しました。写真の一部にはモザイクが施されていたものの、献体が並ぶ様子を「頭部がたくさん並んでるよ」という文字と笑顔の絵文字と共に投稿し、さらに献体の前でピースサインをする自身の写真も掲載していました。これらの投稿は瞬く間にネット上で拡散し、強い批判を招くこととなりました。
本件で特に問題視すべきは、当事者及び組織の対応です。
当該医師は「ご遺体から学べる貴重な機会があることを多くの医師に知ってもらいたかった」と釈明し、所属法人の総括院長も「動機は善で当該医師に他意はありません」と擁護するコメントを発表しました。しかし、この対応は危機管理の観点から見て、著しく適切性を欠くものでした。
組織が大きくなればなるほど、不祥事が発生するリスクは高まります。SNSの強力な拡散力により、一つの不適切な投稿が組織の存続を脅かしかねない現代において、私たち医療人は組織の大小に関わらず危機管理の基本を十分に理解しておく必要があります。特に、組織の経営者や管理職には必須の素養といえると思います。
危機管理における基本原則は以下の4点です。
1. 迅速さ(拙速でない速やかな対応が誠意の表れである)
2. 予断を許さない姿勢(不確実な情報での判断を避ける)
3. 正確な情報に基づく対応(情報を常にアップデートする)
4. 真実と向き合う誠実な姿勢(心のこもった誠意ある対応をする)
これらの原則に基づき、標準的な危機対応は①調査→②対応計画立案→③広報対応→④再発防止策という流れで進められます。昨今のフジテレビジョン経営陣の対応は、これらの不祥事対応の大原則の基本に全く真逆の思考と判断でした。
今回の事例が示唆するように、組織の規模に関わらず、全てのステークホルダーに対する『真摯に向き合う誠実な姿勢』が不可欠です。しかし、当事者となった際には、理想と現実の行動が乖離してしまうことがあります。そのような時こそ、『論理的正しさを意識すること以上に、物事を客観的にどう見ることが、より妥当性があるかを考え続ける姿勢』が重要と思います。
私たち医療機関の管理職は、この事例を教訓として、日頃から危機管理についての自己訓練を行い、組織としての対応力を高めていく必要があると思った次第です。
春が近づく2月は、三寒四温が続く時節柄、会員の皆様におかれましては、感染症にも十分ご留意いただきながら、日々の診療に邁進していただきますよう、心よりお願い申し上げます。