29. 1%未満の確率
頭痛をメインテーマとして仕事をしてきました。
「頭痛」と単純に言ってもその病態は、複雑多岐にわたります。
頭痛があれば、必ず頭痛の原因がどこかにあるばす・・・。
その原因が、命に関わる頭痛なのか、そうでないのかまた命に関わらなくても日常生活に支障を来す頭痛なのか、そうでないのか。
頭痛の原因を探り危険を回避する、そしてその軽重を迅速に判断して道しるべを示してあげるその指南役が私の務めだと思っています。
でも頭痛が起った時に必ずその原因が究明できるわけでもありません。
原因がわからないまま自然経過の中でいつの間にか治ってしまう頭痛もあります。
初めての頭痛、あるいはいつも頭痛がある人でもいつもの頭痛と異なる頭痛が起った時頭の中に何か問題がないかを心配されて来院されます。
頭が痛いといっても「いつから痛むのか」「頭のどの場所が痛むのか」「どんなふうに痛むのか」と一見単純に思える頭痛の症状は、人によってそれぞれで多様です。
年齢がいくつか、によっても想定される頭痛の原因が異なります。
頭痛の診断を行なう時にその分類は、国際頭痛学会によると100種類ほどあります。
(実は、私・・・全部覚えていません・・・
何故って、覚えるのは、3つまでが限度でして・・・
3つ以上は頭に残らないから)
その3つとは
一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛・・・)
二次性頭痛(くも膜下出血、脳腫瘍・・・)
頭部神経痛(三叉神経痛、後頭神経痛・・・)
国際頭痛分類には、頭痛の種類がまだまだ山の如くありますがそれらを記憶して分類することが、私の仕事ではありません。
私には、昆虫を集めて分類してきちっと箱にしまって飾っておく趣味はないのです。
頭痛が、起った時にそのほとんどが「心配のない頭痛」です。
そして、ほんの一部の頭痛が、「生活に支障を来す頭痛」です。
さらにごく少数が、「命に関わる頭痛」です。
日常の診療の中では、この3つの頭痛患者さんが混在しています。
患者さんには、ああ良かった、心配のない頭痛ですよ、と言って上げたい。
生活に支障を来す頭痛には、なんとかして解消して上げたい。
命に関わる頭痛には、信頼できる医者を紹介して上げたい。
そんな想いで日々の診療に取り組んでいます。
ごく少数の命に関わる頭痛・・・すなわち1%未満の確率で潜む危険を察知してそれを回避できることが、プロフェッショナルとしての役割だと思います。
もし私が、「心配のない水虫を見誤った」としたらどうなるでしょうか?
これは、患者さんから見れば“立腹もの”です。
でも、許してもらえそうにも思えます。
では、「命に関わる頭痛を見落とした」らどうなるでしょうか?
これは、まさしく医者から見れば“切腹もの”です。
お前は、プロとして役目を果たしていないぞと。
“たった1%未満の切腹ものの確率・・・”
しかし、私には重い数字で侮ることができない確率です。
プロの仕事とは、「1%未満の確率を責任と誇りを持ってやる使命である」と常に自分に言い聞かせながら患者さんに対峙しています。
2009.1.22