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コラム

31. 成長の一階段

2015.06.08

今年の大相撲初場所は、1月25日に千秋楽を終え横綱朝青龍が、白鵬との優勝決定戦を制して5場所ぶりに23度目の優勝を飾りました。
久しぶりに手に汗握る大相撲を見せてもらいました。

前評判では、引退勧告も囁かれていただけにそのプレッシャーをはね除けて優勝した朝青龍は、さぞかし飛び上がらぬばかりに嬉しかったことでしょう。
優勝した瞬間に土俵の上で見せた感情全開のガッツポーズはその気持ちを如実に表したものでした。

しかし・・・
そのガッツポーズが、横綱の姿勢として相応しくないと批判されています。
大相撲が、他の格闘技と違うのは、形を重んじる日本の伝統を継承しているだけではありません。
勝った者は喜びを、負けた者も悔しさを表情や行動に表さない。

この「抑制の美学」が、他の野蛮な格闘技と異なる大相撲の大きな魅力だと思います。
取り組みが終れば、勝者も敗者も土俵の上で自分の感情を抑えつつお互いに頭を下げて黙礼する。
そんな姿が日本人の美意識の根幹だからこそ、その姿が相応しくないと批判されるのでしょう。

さて2月1日・・・
世間では、あちらこちらで入学試験の本番を迎えています。
首都圏では、小学生の5人に一人が、私立中学を受験すると言われています。

小学生から受験勉強に励んで来た子供さんも親御さんもさぞかし大変だったことでしょうね。
(お疲れさま)
大学受験する人も自分の進路を大きく左右する試験に緊張していることでしょう。
(もう少しの辛抱だよ)

私自身、大学受験では幾度となく辛酸を嘗めた経験があります。
合否発表の掲示板を見に行った時自分の受験番号を見つけることができずに悔しく寂しくその場を立ち去っていく。
その真横で合格の歓喜に沸く受験生を尻目に唇を噛んだ辛い想い出が、それも幾度もあります。

やっと合格を勝ち得たその瞬間は、今でも忘れられない無上の喜びでした。
でもその陰には、かつて私が経験したように悔し涙でその場を立ち去った受験生が必ずいたはず。

今、その時の情景を思い出すと合格の喜びで飛び上がらんばかりに歓喜のガッツポーズを上げていた自身のそんな姿は周りへの配慮はなく自分だけの世界に陶酔したものでした。

つらい受験勉強を経てやっと勝利を得たのですから歓喜の雄叫びを上げるのは当たり前と思いながら・・・
それでもなお、今から思い返せば受験に勝者となったとしても失敗した敗者へも少しばかり思いを馳せて上げてほしいと今受験している人たちに思うのです。
勝利した者は、敗者へも心を馳せる、そんな品性ある人間に成長してほしいと心から願います。

朝青龍が、優勝決定戦で勝利を得た時、土俵の上で勝利の喜びを噛みしめてジッと涙を流しながら敗者の白鳳へ深々と黙礼していたならばどんなに美しい光景だったことでしょう。
たぶん、歴史に残る名勝負として後世に語り継がれたに違いありません。

でもできなかった。
朝青龍が、自分の品位の無さ、醜い言動に気付くのは、恐らく引退してからではないでしょうか。
大相撲の伝統を守る品位ある新しい横綱が現れた時その美しい姿を見てハタと自身の恥ずかしい言動に気付かされることでしょう。

品格の醸成は、「自身の辛い経験」と「他者の美しい姿」が融合して育つもの。
それには、時間がかかりそうに思います。

受験生のあなた・・・
「勝者となっても驕らず」「敗者となっても腐らず」成長の一階段をまた一つ登って行って下さい。

2009.2.1