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コラム

56. 毎年年末に思うこと

2015.06.09

師走の気忙しい時期になりました。
外では、クリスマス会や忘年会などで飲食の機会が多くまた家では、年賀状書きや大掃除などで忙しい日々です。

12月末になるとテレビや新聞などで「この1年を振り返って」という類いの番組や記事が組まれます。
私たちにとって、この1年は、どんな年だったでしょうか?

毎日を単調に過し、物事を深く考えず、つい流してしまう生活になり勝ちですが12月は、そのような番組や記事をみることで、自己との対比の中から自省する絶好の機会です。

この1年間のさまざまな出来事を振り返えると社会で起った事、身の周りで起った事、自身で起った事、それぞれを思い返し社会の中で生きている私たちは、如何にチッポケな個人であってもその関わりの中で「生かされている」ことを思い知らされます。

若い頃、私は「生かされている」という言葉の意味をよく理解していませんでした。
というよりも、あまり深く考えていませんでした。

 「生かされている」ってどういうこと?
 「生きている」んじゃないの?

めんどくさい事は、後回しの私は、「まあ、どっちだっていいやあ・・・」と。
毎日を単調に、思考の回転を停止して、物事を深く考えず流している日々ではこんな感じで、あっという間に1年を過してしまいます。

でも、よくよく考えてみると・・・
この「生かされている」と「生きている」とは、言葉の単純な受動と能動の違いよりもその内実は、“ 漸減したり漸増したりする動態語である ” ことに気付かされます。

「漸減漸増する動態語」・・・それって、一体、どういう意味?

一番端的に分かり易い状況は、入院患者さんが、点滴や経管栄養を受けている時です。
何らかの理由で、自身の口から食事が摂れなくなった時私たちは、命を繋ぐために、外から種々の施しを受けます。

食事の量が、少なかったり、栄養状態が、悪化した場合点滴や経管栄養は、漸増されていきます。

それは、自らの力で「生きている」ことができないまさしく、他の力によって「生かされている」状態そのものです。

そして、自身の口から食事が摂れるようになると点滴や経管栄養は、徐々に漸減されて最終的に離脱できれば、自身のみで「生きている」状態になります。

このように「生かされている」ことと「生きている」ことに内包されている意味は医療の場面では、非常に分かり易い、事象が漸減漸増する動態言葉です。
動態とは、変動していく状態のこと。

このように考えると、社会で起っているいろいろな場面でも「生きている」私たちは、他から影響を受けながら、自ら変動し社会から「生かされている」事が、よく分かります。

では、生かされている私たちは、社会でどのように生きていけばいいのでしょうか?

物事の優先順位を付ける際の基準はなにか・・・
そして、何が大切で、何が大切でないのかを如何に判断するか・・・
その基準と判断によって、自分たちの今後の行く末が、決まると考えればたじろいでしまいます。思考停止になってしまいます。

この1年を振り返って社会で起っている事、身の周りで起っている事、自身で起っている事それぞれを重ね合わせると「生きている」私たちは、社会から「生かされている」今、うなずく一点があります。

それは・・・
 『一粒の雨が、集積すると、川の流れの源流となり
  やがては海へと注がれて、大海原に沈むように
  私たちもまた、無窮の時の流れの中で
  雨粒のような一過を生きているに過ぎない』と。
  (五木寛之著、大河の一滴より)

だから・・・
私たちは、喜怒哀楽の中で「生きている」だけで、まずは幸福だと思います。
私たちは、愛別離苦の中で「生かされている」ことが、有り難いと思います。

だって、世の中には、生きたいと願い、生かせて下さいと嘆願しながら運命の悪戯で、この世から去らねばならなかった余人が、大勢いるのですから。

12月のクリスマスを過ぎると、胸が張り裂けるような思いでもし可能なら時間を元に戻したいと念じながら、終日ベッドサイドで時を過した2年前を昨日のようにリアルに思い出します。

そして、多くの患者さんの命を救って来たつもりでいた私に救命できず故人となったかつての患者さんの貴重な尊い命の重さが今頃になって、私の背中に伸し掛かって来る時でもあるのです。

毎年、年末のこの時期になると、寂寞たる深夜に心ならずも亡くなった故人の冥福を心静かに祈りながら「生きている」ことと「生かされている」ことの意義を考え

そして、翌朝になって朝陽を浴びると「よ~し、(心は泣いても)顔は笑って、今日も一丁頑張ったろかあ~」と思う12月の末日なのでした。

多くのみなさま、今年も大変お世話になりました。
来年が、さらに良き年となりますように祈念しています。

2009.12.27