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コラム

73. 朝起きの時代

2015.06.10

9月下旬になると、夜が明けるのが、だいぶ遅くなって来ました。
横浜における日の出の時刻は19日敬老の日が午前5時26分、23日秋分の日が午前5時29分でした。

昼と夜の長さが、ほぼ同じになる秋分の日が、終った頃私は、私たちにとって24時間とは何かとりわけ「朝の効用」「朝の意義」について考えてみました。

私たちは、太古から夜明けとともに起き、日没とともに活動を休止するのが人類誕生して以来、続いてきた生活形態でした。
人類が誕生した頃、雷や火山の噴火によって起こった自然による火災を利用して生活していました。

たまたま起こった災害から出た火の粉を頼りに生きていた人々は、自然とそれこそ命を賭けて対峙していたと思います。

自然と真剣に対峙していた当時の人々が風で擦れ合う木々の枝から発火するのを偶然見た。
たまたま火が興る瞬間を偶然に遭遇しそれをきっかけに自然から発火する術を学び取った。

乾いた木を横に置いて、その木に垂直に別の木を当て擦ることで摩擦の熱が発生し発火する。
この術は、人類の最大の発見でした。

火を絶やさないことで夜を明るく過せ寒い土地でも暖かく生活できるようになった。
このような火の発見は、50万年前のことだと言われています。

偶然手に入れた火が、私たち祖先に与えてくれたもの
それは・・・
闇夜を照らす「明るさ(光)」と厳冬を耐える「暖かさ(熱)」の二つです。

夜行の獣から身を守り、寒くなった体を温めてくれる火を家長は家族のために大切にし、これを絶やさぬように番をしながら守り続けることが彼らの宿命だったのでしょう。

明るさと暖かさに癒されながら夜明けとともに起き、日没とともに活動を休止する。
「朝」が、私たち人間の日々の暮しにとって「蘇り」の時で人類の誕生以来、延々と続いてきた生命の循環でした。

ところが、近代になって電気が発明されさらにおよそ100年ほど前に電灯が出現します。
この術は、人類で二番目の発見と言われています。

それによって、私たちの生活は、夜も活動可能になり生産活動を上げるため24時間だれかが動いています。

通常、私たちの一日の流れは、それぞれの地域、すなわち国単位で日の出から一日が始まり、日の入りで主な活動は終息します。
でも、電気の力によって、その後私たちは、多大な「明るさ」と「暖かさ」を手に入れました。

経済や社会の国際化の中で、たとえば金融市場ではニューヨーク、ロンドン、香港、そして東京と24時間どこかで活動されていて、一瞬の休みもなく情報や通信が飛び回っています。

医療は、どうかと言えば、時間帯によって活動の軽重はあっても基本的には、24時間活動が続いており究極の命を守るという意味では、休みはありません。

しかし、経済や社会、あるいは医療が、その総体として24時間活動しているとはいってもそれぞれ働く個々人は、朝から仕事が始まり、夕刻には終息する。
その後は、夜の勤務を担う人たちが、業務を引き継き、翌朝まで継続します。

かつて、私が24時間体制の救急病院に勤務していた頃一日の24時間の中で、病院にとって、朝がいったいどんな時間帯なのかとりわけ早朝という時間帯が、私たち人間の活動と病気の発症においてどんな関連があるのかを身をもって体験していました。

病気が、発症し難い時間帯というのは人間のバイロリズムと密接な関連があると言われています。
その関連は、大自然が織り成す24時間のリズムと一致して早朝の3時~6時が、病気の発症頻度、とりわけ脳卒中が少ないのです。

だから、私は、今もこの時間帯が一番好き。
朝、まだ誰も起きていない日の出より更に早い時刻に目覚めて活動を開始することによって、一日の生活が引き締るように思います。

この数時間が、だれにも邪魔されない至福の時間。
本や新聞を読み、資料に眼を通し、ある時は専門書を開く。
思索を巡らして計画を練る。
文章を書くのも早朝に書いた文面は、何故が素敵な言葉が、湧き出て来ます。

高校時代の国語の先生から、ラブレターは朝に書けと教わりましたがなるほど、確かにその通り・・・。
(この国語の恩師は、今でもおっかなくて頭が上がりません)

「よ~し、この○○レターの文言は、なかなかイケてるぞ」
などと一人ほくそ笑みながら、恩師のご助言を今も忠実に守っている(?)。
朝の理性は、客観的で冷静な判断を下せる大脳生理の「朝の効用」なのでしょう。
この朝の効用が、どのようなレターに生かされて、実効あるのかは、不明ですが。

以下の( )内は、著者の心の内をつぶやきとして述べたもの。

 (一ヵ月に約40~50通の○○レターを書いています。
  40~50人の相手の顔を想い浮かべて、美辞麗句を並び立て、それはそれは丁寧な文言です。
  自分でもウットリしそうなお手紙は、差し出した相手と相思相愛。

  ○○レターとは、いったい誰に宛てた手紙なのでしょうか?
  そんな多くの愛人を隠し持っていたのか?
  もしそうだとしたら、多くの男性からは羨ましがられ、多くの女性からは嫌われる?

  いやいや、そんな訳がないでしょうが。
  ○○レターとは、近隣の病院やクリニックから紹介を受けた患者さんについて紹介医への返書
  つまり診療情報提供書=メディカル・インフォメーションという「報告レター」でした)

早朝は、私たちがどんな時であれ、確実に清々しさを与えてくれます。
大自然の夜明けに立ち会うと、自然が織りなす余りの美しい光景に心を揺さぶられます。

玉などが、透き通るような光輝く玲瓏たる朝の光を全身に浴びるとその瞬間心は広がり、爽快な気分になって今日もまた、一日がんばろうと思わせてくれるのが「朝の意義」なのでしょう。

確かに、人類にとって「朝の効用」と「朝の意義」は普遍の真理だとしても朝起きは、すべての人のただ単なる健康法や問題解決法ではないと思います。
なぜなら、朝起きが苦手の人もいれば、病気のために朝起きが困難な人もいるだろうから。

灯火の力を得てから50万年
電気の力の使用から100年
そして・・・震災から 半年が過ぎました。

私たちは大自然の摂理が貫徹した「朝」に効用と意義を認め人類が発見した「灯火」と「電気」に英知を感じます。

そして、朝陽に照らされた生命の源となる貴重な日の出の時刻を私たちは、朝早く起きて過すことが出来ればどんな困難にぶち当たっても、どんな試練に遭遇してもまた新たな「勇気」と「気力」が、みなぎって来るのではないかと思います。

「朝起きの時代」
それは、太古から人類の遺伝子に仕組まれた生き知恵でした。

2011.9.26